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大阪地方裁判所 平成6年(行ウ)29号 判決

原告

甲田乙郎

原告補助参加人

被災者救災会常任理事会

右代表者会長

諸正漢

被告

大阪中央労働基準監督署長冷水功雄

右指定代理人

前川昭

川井忠雄

田中義郎

中村忠正

井上昭二

阿部旨晴

主文

一  原告の訴えを却下する。

二  本件補助参加の申出を却下する。

三  訴訟費用のうち参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し、平成二年九月二二日付でなした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による障害補償等級を一二級一二号とする支給決定処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、作業中に被った負傷による後遺障害に関し、被告が本件処分をしたのに対し、右後遺障害は障害等級六級に該当するから右処分は違法であると主張して本件処分の取消を求めた事案である。

一  争いのない事実

原告は、昭和六三年四月二五日、勤務していた大阪市生野区(住所略)所在のサンエール株式会社(以下「サンエール」という。)の作業場において作業(以下「本件作業」という。)中に負傷し、後遺障害として右膝関節に神経症状を残存した。

原告は、被告に対し、平成二年一〇月五日、右傷病が固定したとして障害補償給付を請求し、被告は、同月二二日、本件処分を行った。

二  主たる争点

1  原告の本件訴えは、訴訟要件(労災保険法三七条、行訴法八条一項ただし書)をみたすか。

(一) 原告の主張

(1) 原告は、本件作業中、ロールの受け皿が、ロールの前に立っていた原告の右膝辺に急に飛び出してきたため、これを避けようとして後ろに飛び下がったところ、鉄枠に腰を強く打ちつけて負傷し、右膝半月板損傷及び根性腰痛症の後遺障害を被った。

原告は、右後遺障害により、体幹の機能の著しい障害を被り、コルセットの常用を余儀なくされ、歩行立位の耐久力の低下、階段昇降困難、二キロメートル以上の歩行不能といった日常生活上の動作の制限を受けているのであるから、本件後遺障害は、脊柱に著しい運動障害を残すものといえ、障害等級六級に該当する。

(2) 原告は、本件処分の障害給付の等級について不服があったところ、浪速解放会館において大阪中央労働基準監督署(以下「大阪中央労基署」という。)の事務官による労災保険に関する相談受付があると聞き及び、平成二年一一月一七日、同会館に赴いて、右不服の申立方法について説明を求めたが、右事務官はあいまいな言葉を繰り返すばかりで、具体的な不服申立方法についての説明をしなかった。さらに、原告は、同月二六日、大阪中央労基署に赴き、審査請求の手続について説明を求めたが、右事務官はあいまいな説明しかなさず、原告には理解ができなかったため、審査請求も、再審査請求もしないまま現在に至ったものである。

また、原告は、生後間もなく父と死別し、ついで、小学六年生の時、母が行方不明になったため、兄弟とともに姫路市の孤児院に預けられ、かかる環境に起因する精神不安により学校教育を十分に受けられなかったため、読み書きが満足にできず、「審査請求をすることができ」るという通知の意味を理解することができなかったものである。

(二) 被告の主張

労働基準監督署長のなした労災保険法による保険給付に関する決定処分の取消の訴えは、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求及び労働保険審査会に対する再審査請求(労災保険法三五条)を行い、労働保険審査会の裁決を経た後でなければ提起することができない(同法三七条、行訴法八条一項ただし書)。

そして、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求は、原則として、審査請求人が原処分のあったことを知った日の翌日から起算して六〇日以内になされなければならない(労働保険審査官及び労働保険審査会法八条)。

被告は、原告に対し、平成二年一〇月二二日に本件処分をし、同年一一月九日、障害補償給付金一七八万九七九六円を原告が指定する銀行口座に振り込むとともに、右振込の手続をしたこと、支給決定金額が一七八万九七九六円であること、障害等級が一二級一二号であること及び右処分に不服がある場合の審査請求期間と方法を記載した国庫金振込通知書を発送し、原告は、そのころ、右通知書を受領したが、現在に至るまで、原告は、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求を行っていない。

したがって、本件訴えは、不適法であり却下されるべきである。

2  原告補助参加人は、本件訴訟の結果につき利害関係を有するか。

(一) 原告補助参加人の主張

同補助参加人は、社会的弱者の権利行使を擁護することを目的として設さ(ママ)れた団体であり、規約を有し、代表者の定めがある。原告は、権利行使を十分にできないから、同補助参加人が本件訴訟に参加して原告を補助することには法律上の利害関係がある。

(二) 被告の意見

原告補助参加人は、本件訴訟につき法律上の利害関係を有しない。したがって、補助参加の申立に対して異議を述べる。

三  証拠

記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

第三主たる争点に対する判断

一  主たる争点1(本件訴えは訴訟要件をみたすか)

証拠(〈証拠略〉)によれば、被告は、原告に対し、平成二年一〇月二二日に本件処分をし、同年一一月九日、障害補償給付金一七八万九七九六円を原告が指定する銀行口座に振り込むとともに、右振込の手続をしたこと、支給決定金額が一七八万九七九六円であること、障害等級が一二級一二号であること及び右処分に不服がある場合の審査請求期間と方法を記載した国庫金振込通知書を発送し、原告は、そのころ、右通知書を受領したが、現在に至るまで、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求及び労働保険審査会に対する再審査請求を行っておらず、労働保険審査会の裁決を経ずに本件訴えを提起したことが認められる。

ところで、労働基準監督署長のなした労災保険法による保険給付に関する決定処分の取消の訴えは、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求及び労働保険審査会に対する再審査請求(労災保険法三五条)を行い、労働保険審査会の裁決を経た後でなければ提起することができない(同法三七条、行訴法八条一項ただし書)ものであるところ、右の事実によると、本件訴えは、労災保険法三七条及び行政事件訴訟法八条一項但書に反する不適法な訴えであり、訴訟要件を欠くから、却下を免れない。

原告は、審査請求を経ていない事由につき、前記第二二1(一)(2)記載のとおり主張するが、右事情は、いずれも、本件訴訟につき労働者災害補償保険審査官による決定及び労働保険審査会による裁決を経ずに提起することを適法ならしめるものではなく、主張自体失当というほかない。

二  主たる争点2(原告補助参加人が本件訴訟の結果につき利害関係を有するかどうかについて)

補助参加人の訴訟参加が認められるためには、補助参加人が当該訴訟の結果につき法律上の利害関係を有すること(民訴法六四条)、換言すれば、補助参加人が加入しようとする訴訟の判決の効力又は内容につき法律上利害関係の影響を被るべき地位にあることを要すると解すべきである(大決昭和八年九月九日民集一二巻二二号二二九四頁参照)。

これを本件についてみるに、原告補助参加人は、本件訴訟の結果につき利害関係を有することの根拠として、同補助参加人が社会的弱者の権利行使を擁護することを目的として設立された団体であること、権利行使を十分にできない原告に対し、同補助参加人が本件訴訟に参加して原告を補助する必要がある旨主張するものであるが、右主張事実は、いずれも同補助参加人が本件訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する事実に該当しないから同補助参加人の本件参加の申出は参加人の要件を充足するとは認めることができない。

三  結論

原告の本件訴えは訴訟要件を欠くからこれを却下し、原告補助参加人の補助参加の申出は不適法であるから却下する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 黒津英明 裁判官 太田敬司)

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